Skip to content
アフリカ

アフリカの医療格差と日本企業の展望と課題

アフリカ大陸は深刻な医療格差という社会課題を抱えていますが、その壮大な大地に開拓の余地が残されている魅力的な市場でもあります。ここでは、アフリカの医療格差の現状と、その背後にある要因について探り、日本企業がアフリカ市場を開拓するためにどのようなビジネスモデルを展開すべきかご紹介します。

アフリカの医療格差と日本企業の展望と課題
目次
  1. 医療格差により起こっている現状
  2. 医療格差を是正するための解決策
  3. 日本企業が介入するビジネスモデルとは
  4. まとめ

医療格差により起こっている現状

他の国々から新規開拓が期待され、2050年には世界の人口の4分の1を占めると言われているアフリカ諸国ですが、医療面ではさまざまな問題が起きています。ここではアフリカ諸国が直面している現状をお伝えします。

sam-mann-41eo5e8jW08-unsplash

難民の増加による医療制度の崩壊

アフリカ大陸では、内戦や紛争が現在でも頻繁に起こっています。例えば、スーダン、リビア、ソマリア、マリ、ナイジェリアなどがその例です。これらの紛争は、地域の政治的な争い、民族間の緊張、資源へのアクセスや利権争いなど、様々な要因によって引き起こされています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2019年のアフリカの難民は2,421万人と推定され、世界の難民の約4分の1を占めています。

そのため、不安定な政治や治安により、医療制度は崩壊し多くの国民がケガや病気をしても治らず、最悪の場合には死に至ってしまう状況となっています。

※参照URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol59/index.html

※参照URL:http://www.keidanren.or.jp/policy/2022/048_honbun.html#:~:text=%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AF%E3%80%81%E8%B2%A7%E5%9B%B0%E3%83%BB%E6%A0%BC%E5%B7%AE%E3%81%AE,%E3%82%92%E9%9B%A3%E3%81%97%E3%81%8F%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

※参照URL:https://www.japanforunhcr.org/news/2019/globalappeal2019

家庭内医療格差による妊婦や新生児の死亡率の増加

アフリカ諸国では、女性の妊娠は不吉なものであり神々や祖先が妊娠中の母親と胎児に死や病気、不運、悪霊の憑依などの呪いをかけると信じられていることがあります。現在では多くの人たちがそれは迷信であると理解していますが、一部の地域では未だに根強くこの考えが残っていると言われています。

また、アフリカ社会では、妊婦や子どもなどは男性よりも生活すべてにおいて後回しにされる傾向があります。そのため、家族内でも医療格差が生じ、妊婦や子どもは具合が悪くなっても中々診療を受けない人が多いです。

UNICEFの2000年から2020年の統計によれば、妊婦の死亡率は医療技術の向上などにより世界的には2.1%下がっています。しかし、国別で見てみると、チャドでは2020年には7800人以上(妊婦は1,000出生あたり 856人、新生児死亡率は1,000出生あたり 57人死亡)、エリア別で見てみるとサブサハラ地域においては、20,600人以上もの妊婦と新生児が亡くなっていることが分かります。

※参照URL:https://data.unicef.org/topic/maternal-health/maternal-mortality/ 内の「Data on Maternal Mortality」(エクセルデータ内参照)

※参照URL:https://rn-journal.com/journal-of-nursing/pregnancy-in-african-cultures#:~:text=Some%20African%20cultures%20believe%20that,and%20the%20rebirth%20of%20ancestors.

※参照URL:https://www.vox.com/future-perfect/2023/3/17/23641598/maternal-mortality-pregnancy-sub-saharan-africa-who-cdc-report-womens-health

magdalena-kula-manchee-xBrdk1MNBkY-unsplash (1)

医師や医療スタッフの不足

アフリカ諸国では、医療スタッフ不足が深刻な医療格差をもたらしています。一見関係のないように見える人材不足と医療格差ですが実際には密接に関わっています。

医師や医療スタッフが育たない背景には、不安定な国の情勢や財源不足があります。日本や欧米諸国では医師や医療スタッフは比較的安定した職業と考えられていますが、アフリカでは、給料が低いわりにテロなどのターゲットになりやすいため割に合わない職業として若い人たちには人気がありません。

また、地方と都市の給与格差も激しいため、医師になっても敢えて地方に行くような人は多くありません。そのため、地方では病気やケガになっても応急処置ができず、最初は助かるような軽症で病院を訪れても、手遅れになり亡くなってしまう人が後を絶たないのが現状です。

特にナイジェリアでは医師不足がかなり深刻になっており、人口1万人当たりの医師数が約4人です(日本は1万人あたり24人)。地方ではさらに人材不足に悩まされています。

さらに、日本では考えられないですが、アフリカでは未だに民族間のつながりが強いため、部族が違う医師やスタッフが治療を担当するのを嫌がる人たちも多く、それらも医療格差を産む一因になっています。

※参照URL:https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210511/se1/00m/020/076000c

※参照URL:https://clinickaigyo-navi.com/column/doctors-population-about/

医療格差を是正するための解決策

医療格差は個人による努力だけでは根本的な解決にはなりません。ここでは、医療格差をなくすにはどうしたらいいのか、実際に行っているプロジェクトなども含めて紹介していきます。

医療インフラの強化と近代化の重要性

十分な医療施設や設備・医療技術の提供が十分であれば、都市部や地方に関わらず、全ての地域の人々が公平に医療ケアを受けることができるようになります。

また、適切な医療設備や機器・人材が豊富であるならば、出血、心臓発作、交通事故などの緊急事態の際でも、正確な診断、効果的な治療、予防措置(アフターケア)まで1つの病院内で行うことができるのです。

これにより、疾患の予防や早期発見、慢性疾患の管理が可能になるとともに、豊かな地域と貧困地域、都市部と農村部の間の健康格差を減らすことにも貢献できると考えられます。

実際に、日本政府や日本の国際協力機関(JICA)は、アフリカ諸国において医療施設の建設、医療機器の供与、医療従事者の育成などを通じた支援を行っています。

個人企業としては、AA Health Dynamics社では「メディカルウェビナー」や「メディカルスキルトレーニング」を通じ、医療スタッフの技術や知識の向上を目指し、ケニアの医療インフラに貢献しています。

※参照URL:アフリカ地域医療施設機能改善(広域)プログラム

※参照URL:https://www.aa-healthdynamics.com/ja/blog/article_7

jacques-nel-f0RvpwF-iXE-unsplash

持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み

私たちは国際的な枠組みである持続可能な開発目標(SDGs)に基づいて、アフリカの医療格差の解消に取り組むことが重要です。

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、国際連合(UN)が2015年に採択した持続可能な開発目標のことです。2015年から2030年までの15年間にわたる国際的な行動計画であり、貧困削減、教育の普及、ジェンダー平等、健康へのアクセス、環境保護など、持続可能な開発に関連する17の目標と169の具体的なターゲットから構成されています。

特に目標5である「ジェンダー平等を達成する」は今後の医療格差を無くす上で重要になっていくと思います。

アフリカの医療格差は、ジェンダーによる偏見や差別が一因となっています。特に女性や子どもは、医療へのアクセスの制限や医療情報への不平等なアクセス、出産時の適切なケアの欠如などに直面しています。

そのため、アフリカ諸国においてジェンダー平等を推進し、女性の地位と権利を促進することにより、医療格差の解消に貢献できるでしょう。

※参照URL:https://gooddo.jp/magazine/education/education_africa/4128/

研究データの共有

研究データの共有は、アフリカの医療格差の解消に向けた国際的な協力や連携を強化するための重要な手段です。データの共有により、知識とリソースを結集し、包括的なアプローチを実現することができるようになるからです。

アフリカ諸国との研究協力やデータ共有を推進することで、医療の質と効果の向上に貢献することができ、必要な支援や投資の優先順位を決定することができます。

また、研究データの共有により、同じテーマや領域についての重複した研究を回避でき、限られたリソースをより効果的に活用できるようになるため、研究の信頼性と科学的な進歩を促進することも可能になります。

※参照URL:https://rcos.nii.ac.jp/miho/2018/06/20180628/

※参照URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/report/status/PR000137.html

※参照URL:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2019-07-19-0

national-cancer-institute-LxPrHCm8-TI-unsplash

日本企業が介入するビジネスモデルとは

ビジネス展開も含め、日本企業がアフリカの医療格差問題に取り組むには、現地のニーズとリソース、文化的な要素、地域の経済状況などを考慮する必要があります。また、現地のパートナーシップや政府との協力を得られれば、そのシェアは飛躍的に伸びると考えられます。ここでは日本企業の強みをもってして介入しうるビジネスモデルについて筆者の考えを提案いたします。

医療機器や設備の提供

日本企業は、アフリカの医療施設に必要な医療機器や設備の供給を行うことで医療格差の縮小に貢献できると思います。

低コストで耐久性のある医療機器や設備の開発や提供、保守点検の定期的なサービスをサブスクリプションやレンタルサービスにして行うことにより、企業にも利益が定期的に生まれつつ、アフリカの医療施設の能力向上と適切な医療サービスの提供を支援することができます。

医療人材の育成と教育

医療技術や診断方法のトレーニングプログラムやスキルアップのための研修プログラムを提供することで、アフリカの医療従事者の能力向上と医療サービスの質の向上に寄与することができます。

AA Health Dynamics社では「メディカルウェビナー」や「メディカルスキルトレーニング」などによる医療教育、長崎大学では、アフリカ15カ国を含む合計19ヵ国、32名の研修員が長崎を訪問し、離島での医療機関の見学や日本の保健医療の状況、サービス提供の体制などの研修を受ける制度を始めています。

※参照URL:https://www.aa-healthdynamics.com/service

※参照URL:http://global.nagasaki-u.ac.jp/2017/03/02/nl08-03/

getty-images-jZhMqqIoHoc-unsplash

テレメディシンの導入と展開

テレメディシンは、遠隔地やリモートエリアにおいて医療サービスの提供を可能にする技術です。日本企業は、テレメディシンの技術やソリューションを提供し、アフリカの地域での導入や展開を支援することができます。

これにより、遠隔地の住民やリモートな地域の医療施設にアクセスしにくい人々にも医療サービスを提供することが可能です。

現在では日本でも高齢化が進んでいるため、高齢者の在宅医療や継続的な健康管理においてテレメディシンが有用なツールとして利用されています。また、オンライン診療や電子カルテの導入など、テレメディシンを支援する法制度やインフラも整備されています。

※参照URL:https://globalxetfs.co.jp/research/introducing-the-global-x-telemedicine-digital-health-etf-edoc/

まとめ

アフリカ大陸は潜在力を持つ魅力的な市場ですが、現在は医療格差が深刻な状況です。主な要因として、内戦や紛争による医療制度の崩壊、妊婦や新生児の死亡率の増加による家庭内医療格差、医師や医療スタッフの不足が挙げられます。

これらの問題を解決するためには、アフリカに進出する日本企業は、テレメディシンの推進、医療インフラの強化、人材育成と教育支援、地域特性への適応、パートナーシップの構築など、多角的なアプローチを採用する必要があります。

これらは、アフリカの医療格差の解消に向けた日本企業の貢献を具体化するものです。ただし、アフリカの文化やニーズに合わせた戦略とパートナーシップの構築が重要です。

そのためには、地域のステークホルダーと協力し、持続可能なビジネスモデルを確立することで、アフリカの医療格差の是正に貢献しかつマーケットシェアを伸ばしていくことが大切ではないでしょうか。

 

増田さなえ

増田さなえ

米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

Business Image

お問い合わせ

Latest Articles

女性の健康に着目!ルワンダ発「Kasha」を徹底解説!

女性の健康に着目!ルワンダ発「Kasha」を徹底解説!

ルワンダ発のスタートアップであるKashaがケニアにもその規模を伸ばし、今注目を集めています。ここでは、女性の健康、衛生、およびセルフケア製品販売に関するプラットフォームを提供しているKashaの企業概要や、どうやって現地の人たちに受け入れられたのかなどを解説していきます。

Waspito カメルーン発の遠隔医療プラットフォームのスタートアップを徹底解析

Waspito カメルーン発の遠隔医療プラットフォームのスタートアップを徹底解析

カメルーンに拠点をおくWaspitoの遠隔医療プラットフォームは、患者と医師をリアルタイムで接続し、医療相談、診断、処方箋の発行など、包括的な医療サービスを提供してます。ここでは、「Wespito」という会社を取り上げ、その強みや特徴、なぜ現地に受け入れられているのかなどご紹介...

AIF2023アフリカ投資フォーラム(ヘルスセクター部門)実況レポート

AIF2023アフリカ投資フォーラム(ヘルスセクター部門)実況レポート

2023年11月8日から10日までモロッコのマラケシュで開催されたアフリカ投資フォーラム2023(AIF2023)には、アフリカの政府首脳、投資家、取引スポンサー、開発金融機関など多くの人たちが参加しました。ここでは、AIF2023のヘルスケア部門にて、実際にどのような企業が参...