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新興国

ケニアの訪問診療を牽引する「TibuHealth」とは

アフリカにおける訪問診療サービスは、現地の医療供給体制の強化と患者さんにとっての利便性の向上に寄与しており、特に郊外などの遠隔地や緊急時の医療ニーズに対応しています。ここでは、ケニアのヘルスケアスタートアップ「TibuHealth」という会社を取り上げ、その強みや特徴、なぜ現地に受け入れられているのかなどをご紹介していきます。

目次)

  1. 訪問診療(在宅医療ケア)について
  2. TibuHealthについて
  3. TibuHealthの誕生背景
  4. 会社概要や運営状況
  5. まとめ

訪問診療(在宅医療ケア)について

ここではまず、訪問診療(在宅医療ケア)とはどのようなサービスを行う物なのか、実際にどのような医療サービスを提供しているのかをお伝えしていきます。

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訪問診療とは

訪問診療は、医師や看護師などの医療スタッフが患者さんの自宅を訪れて医療を提供するサービスです。具体的な医療サービスとしては、例えば日本では、看護師が患者さんの自宅で看護ケアを提供する「訪問看護」が一般的になってきたのではないでしょうか。

それ以外にも、医師が患者の自宅を訪れ、診察や治療を行う往診や、患者さんが自宅でリハビリを受けることができる訪問リハビリテーションなども執り行う医療機関が増えてきました。

また、在宅酸素の管理や褥瘡・創傷処置など、医療法人が患者に必要な医療対応を提供する在宅医療サービスや、最近では歯科医師が患者さんの自宅で歯科治療を行う訪問歯科診療などが提供されている地域もあります。

これらのサービスは通常、患者が病院やクリニックに通院することが難しい場合や、在宅でのケアが必要な場合に提供されます。訪問診療は患者さんの利便性を向上させ、特に高齢者や病気の方々にとって重要な医療アクセス手段となっています。

※参照URL:訪問診療とは?定義や利用するメリットについて
※参照URL:在宅医療ではどのようなサービスを受けることが出来るの? | 千葉市の訪問診療(在宅医療)専門 千葉駅前・幕張スタークリニック

アフリカの訪問診療の特色

訪問診療について、アフリカではいくつかのスタートアップ(※)が異なる事業内容を展開しており、このように医療機関ではなくスタートアップが医療関連のサービスを提供している場合、サービス内容は日本と同じく、看護師が患者の自宅を訪れて看護ケアを提供する「訪問看護」が一般的です。 

特に、ケニア・セネガル・ルワンダなどでは、複数のスタートアップが先導し、病気の発生を防ぐ基礎的な保健サービスの提供(1次予防)、病気の早期発見と早期治療(2次予防)、残存機能の回復と維持・リハビリテーションの提供(3次予防)、在宅看護にかかる技能訓練も提供しています。

また、アフリカの在宅医療サービスで特徴的なことは、訪問医療アプリを駆使して患者さんの健康を管理しているところです。アプリにより、医師や看護師が患者さんとリモートでコミュニケーションを取り合いながら、診療を行っています。

※注:スタートアップとは、急成長を遂げることを目指す新興の企業や組織を指します。これらの組織は通常、革新的なアイデアや技術を基に、新しいビジネスを創り出し、短期間で急激な成長を遂げることを目指しています。
※参照URL:アフリカスタートアップデータベース(2022年上半期版)
※参照URL:在宅医療・看護サービスの需要拡大と現地企業の挑戦(エチオピア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
※参照URL:アフリカにおける新規 MOC 締結候補国選定のための 基礎調査及びヘルスケア分野の ビジネスパートナー発掘業務 調査報告書

 

TibuHealthについて

ここでは、TibuHealthとはどのような医療サービスを提供する会社であり、また、どのような背景から誕生したのかをお伝えしていきます。

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TibuHealthはケニアのスタートアップ企業

TibuHealthは、「人々がより簡単に質の高い医療サービスを受けられるように」というスローガンを掲げる、医療とテクノロジーの専門家の小さなチームによって2018年に設立されたケニアのスタートアップです。

医療とロジスティクスにおける最先端のテクノロジーを採用し、患者さんに、より良い健康結果、より健康的な生活、そして、患者さんが自身の大切なことに時間を費やせる人生の手助けを目的とした医療サービスを提供しています。

立ち上げ当初は、患者さんたちに直接医療サービスを提供する方法(自宅の医療サービスの提供)に重点を置いていましたが、患者さんからのニーズを反映し、2022年以降は在宅訪問診療、バーチャル診療、日本では主流になりつつあるサロンのようなモダンなクリニック設立という3つの戦略的アクセスポイントを通じて、患者さんにヘルスケアを提供するようになりました。

現在では、上記のような診療のほかに、インフルエンザ・コレラ・肝炎などのワクチンの提供や、マラリア・COVID19・尿検査や一般的な血液検査なども含め、あらゆるサービスを提供しています。

※参照URL:TIBU HEALTH CLOSES A PRE-SERIES A LED BY HEALTH54 TO ACCELERATE ITS GROWTH - CFAO
※参照URL:TibuHealth— Republic

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TIBU HEALTHが採用したテクノロジーとは

TibuHealthで使用するアプリの特徴は、E2E(エンドツーエンド)暗号化と呼ばれる通信手段を使っていることです。E2Eとは、患者さんと医療スタッフの二者のみが通信の暗号化と復号(暗号化やデータ圧縮など何らかの処理を受けた符号列などの情報から元のデータを復元すること)を行い、第三者が介入できないようにしてコミュニケーションを取る方法のことです。

このE2Eを使うことにより、患者さん自身が、自身の操作する医療機器やソフトウェアの暗号鍵を保有・管理し、回線や中継システムなどは暗号化済みのデータを相手方である医療機関などに送り届けるのみとなるため、セキュリティの強化された環境内で自分のプライバシーを守りつつ健康を管理ですることが可能になります。

E2Eだけでなく、TibuHealthはテクノロジーを駆使した「オムニチャネル・サービス提供モデル」を通じてヘルスケアのサービスを行っています。

「オムニチャネルサービス」とは、企業とユーザーの接点となるウェブやアプリ、対面、在宅、バーチャルなどのチャネルをそれぞれ連携させ、ユーザーにアプローチする戦略のことです。この方法をTibuHealthの医療サービスに組み込むことにより、患者さんが医療知識などの情報収集や健康管理など、あらゆる医療サービスへ自由自在にアクセスすることができるようにしました。

そのため、TibuHealthでは、患者さんがクリニックを探している場合には、空きのある診療所へ外来診療を紹介できるようにするなど、ヘルスケア・サービスを身近で快適な環境で提供できるようになりました。

また、診療だけでなく、患者さんのすべての医療データをデジタル化し管理するとともに自分で好きな時に見返せるようになっています。そのほか、治療後のフォローアップや次回の診療の予約などの計画も立ててもらえるようにサービスも提供されています。

※参照URL:About Us | TIBU Health
※参照URL:エンドツーエンド(E2E)とは - 意味をわかりやすく - IT用語辞典 e-Words
※参照URL:オムニチャネルとは?意味や戦略、成功事例をご紹介
※参照URL:※参照URL:TIBU HEALTH CLOSES A PRE-SERIES A LED BY HEALTH54 TO ACCELERATE ITS GROWTH - CFAO

 

TibuHealthの誕生背景

TibuHealthが生まれた背景には、ケニアだけでなく、多くのアフリカ諸国で起きているさまざまな問題がきっかけとしてありました。例えば、アフリカの人口は約6億人いますが、医師・医療資源不足やインフラ不足、貧富の差などから必要なときに医療サービスを受けることができない人は、その内にたくさんいることが挙げられます。

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次に、予防医療よりも治療の方に重点を置いており、医療コストが約45%も膨らんでいるため、クリニックへ行き治療を受けるのさえ困難な人たちが多くいることでした。

また、日本や欧米では患者さんが少しでも安らげるように、モダンで一見するとクリニックに見えないような外見の建物が主流になってきていますが、アフリカ諸国にはそのような病院はほとんどなく、無機質で印象的にも暗い、伝統的なレンガとモルタル造りの施設であり、患者さんの心をなおさら陰鬱にさせてしまいうる点もあります。

さらに、医療施設の不足から医療従事者の35%が失業中または不完全雇用であり、医療従事者でありながら常に職を探しているような状況です。

上記のような状況から、患者さんたちの診察までの待ち時間は平均45分とアクセスの悪い状況にあります。

それらの問題を1つ1つ解決していくために、TibuHealthは誕生し、オムニチャネルや患者さんたちのニーズに応えるために、さまざまなサービスを展開していくようになりました。

※参照URL:TIBU Health is a startup from FFA's healthtech portfolio

 

会社概要や運営状況

PitchBookやcrunchbaseの情報によると、会社概要は以下のとおりです。

・設立年:2018年 
・ユーザー数:未公開
・推定患者数(ユーザー数):45,000+ 
・臨床検査数:20,000+
・地域医療プロバイダー数:50
・提携保険会社:15+
・提携企業数:25万+
・提携組織数:9,948
・投資家数:24,985
・代表的投資会社:Google, CFAO (Toyota Ventures), Boost VC (Adam Drapers), Netcare (Public), Bluehaven Initiative (Pritzker Family Office), Founders Factory, Verod Kepple Africa Ventures, An amazing group of angel investors.
・会社ホームページ:TibuHealth
・総資金調達額:$2.5Mドル

2023年現在、TibuHealthでは300を超える医療サービスを患者さんに提供し、8時間以上の時間のロスを無くすことに成功しています。また、一般の人たちだけでなく、国連、世界銀行、政府大使館など、ケニア最大の企業や法人100社以上にもサービスを提供するようになっています。

そのほか、TibuHealthの平均的な患者さんの年齢は27歳から55歳であり、86%以上の患者さんが年に複数回TibuHealthを利用できるようになりました。

さらに、TibuHealthの今後の展望として、今後12ヶ月の間に、さらに2つの都市に事業を拡大し5万人以上の患者さんにサービスを提供し、250万ドルの収益を上げ、2027年までには、アフリカの6つの経済圏で事業を展開し、年間2,500万ドル以上の収益を上げる予定であると言われています。

参照URL:TIBU HEALTH Company Profile: Valuation, Funding & Investors | PitchBook
※参照URL:TIBU Health - Crunchbase Company Profile & Funding
参照URL:TIBU Health — Republic
※参照URL:TIBU Health

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まとめ

TibuHealthは、訪問医療において技術的な革新をもたらす健康ケアプロバイダーの一つです。TibuHealthは、医師を派遣して訪問診療や出張検査を行うサービスを提供しています。

TibuHealthの活動は、在宅医療や訪問診療において、患者がより便利かつ効果的に医療を受けることを可能にしています。そのため、TibuHealthのアプリにはE2E暗号化方式を採用し、患者さんのプライバシーを尊重しつつ、好きな時にまさに「クリック1回」で自分の健康状態や次の診察予約などさまざまな医療サービスを受けられるようになっています。

また、医療サービスの提供には、オムニチャネルサービスを活用し、空きのある医療機関と患者さんたちを素早く繋ぎ、従来の長くかかっていた診療時間までの待ち時間を短縮するなど、患者さんが快適に医療サービスを受けられるように工夫されています。

それは、患者さんが快適に過ごせるように考えられたモダンな作りのクリニックにまで考えが及び、病院=負のイメージだった従来の概念を覆そうとする革新的な考え方にも活かされています。

増田さなえ

増田さなえ

米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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