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ヘルスケア事業から「グローバルサウス」を紐解く

今年6月に行われたG7サミットやウクライナ危機を通じ、グローバルサウスへの注目が高まっています。この記事では、グローバルサウスとは何か、ヘルスケア事業にどのようなチャンスや課題をもたらすのか、さらにそこから一歩進み、グローバルサウスにおけるヘルスケア事業のマネタイズの成功に必要なことは何かを紐解いていきます。

ヘルスケア事業から「グローバルサウス」を紐解く

目次

  1. グローバルサウスとは
  2. グローバルサウスにおけるヘルスケア事業の共通課題
  3. グローバルサウスにおけるヘルスケア事業に共通するビジネスチャンス
  4. グローバルサウスでヘルスケア事業をマネタイズさせるには
  5. まとめ

グローバルサウスとは

ここでは、グローバルサウスとは一体どのようなものなのか、その特徴や、なぜいま注目を浴びているのかをお伝えします。

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グローバルサウスという言葉の意味の変遷

「グローバルサウス」という言葉は、社会や世界情勢の変容とともにその意味合いも徐々に変化を遂げてきました。まずは、古い順番にその変遷を見ていきましょう。

  1. 地理的な条件による区分
    元々は赤道を境に南側の国々の総称であり、アフリカ、ラテンアメリカ、アジアの国々が当てはまりました。しかし、以下で述べるように、新興国や発展途上国の多くが南半球に位置することに由来して、それらを指す言葉としてもグローバルサウスという言葉が使われ始めました。

  2. 経済・生活水準などの指標で劣る地域の区分
    一般的に北半球の豊かな国々(「グローバルノース」と呼ばれることがあります)と比較され、経済成長率や生活水準、教育、健康などの指標で劣る地域を指す際にも、グローバルサウスと呼称される場合があります。

    実際に領土が南半球に位置しているか否かにかかわらず、先進国と発展途上国との間の経済的、社会的、政治的な格差や不平等を強調したり、表現したりするために使われることが多くあります。

  3. 第三国として民主主義と権威主義の中立な立場としての区分
    単純な経済的な貧富の差による分類だけでなく、歴史的、文化的、社会的な要素も関係することがあります。なぜなら、グローバルサウスには多様な国や地域が含まれ、その中には経済的に急速に成長している国や、持続的な発展に向けて取り組む国も含まれるためです。

    例えば、近年経済成長が目覚ましい中国ですが既に経済大国でとなっているが故に、岸田文雄首相が2023年1月のG7に関する国会答弁で「グローバルサウスには中国を含めて考えていない」との見解を示すなど、一般的にリストには入っていません。特に近年においては、民主主義と権威主義の分断のなか、中立を貫くスタンスをとる特徴で注目されている国々や、冷戦期に東西双方の陣営と距離を置いた「第三世界」を表現するときにも使われる言葉です。

    そのため、近年では「グローバルサウス」や「発展途上国」という用語が、その持つ固定観念や否定的な側面に対する批判も存在し、代わりにより包括的な表現を求める声も増えてきています。

※参照URL:https://www.nikkei.com/theme/?dw=23040501
※参照URL:https://ideasforgood.jp/glossary/global-south/

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ウクライナ情勢からグローバルサウスが盛んに言われるようになった理由

2023年の6月に広島にてG7のサミットが開催されました。その中でも話題に上っていたのがウクライナ情勢と、グローバルサウスと呼ばれる新興国や発展途上国の存在です。

一部のグローバルサウスの国々は、明白なロシアの侵略にもかかわらず、多様な反応を示しており、これはグローバルサウス諸国内の複雑なダイナミクスと多様な視点を浮き彫りにしています。

ウクライナ危機を通じてグローバルサウスが注目されるようになった背景には、国際社会のパワーバランスが変化する中で、グローバルサウスの国々の役割と影響力が増してきた点にあります。

G7諸国とグローバルサウスの政府高官が関与する議論は、グローバルサウスの国々が国際的な対話と成果を形成する上でますます影響力を持っていることを反映していると考えられます。

※参照URL:ウクライナ G7とグローバル・サウスの高官による協議開催発表 | NHK
※参照URL:ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」①変わる国際秩序

グローバルサウスにおけるヘルスケア事業の共通課題

グローバルサウスにおける、医療サービスやヘルスケア施設などのヘルスケア事業は、複数の課題を抱えています。ここでは、実際にどのような課題が生じているのか見ていきましょう。

経済的な制約

グローバルサウスの多くの地域では経済的な制約があり、十分な医療資源を整備することが難しい場合があります。医療施設の建設や設備の導入には莫大な費用がかかるため、十分な資金調達が課題です。

また、国自体が貧富の差が大きく、政府は裕福層だけを優遇する政策をとる場合もあり、全ての国民が同じ医療サービスを受けられるような財政の分配ではないことも課題の1つです。

アクセスの不均衡や保険制度の弱さ

グローバルサウスでは、ヘルスケア施設や医療サービスへのアクセスが不十分な地域が多く存在します。特に農村地域や遠隔地、貧困地域では、医療施設が遠く、交通手段が限られているため、適切な医療を受けることが難しい状況があります。

また、医療サービス以前に保健制度や医療システムの整備自体が不十分なため満足な治療やサービスが受けられず、効果的な健康政策の策定や運用が課題となっています。

医療インフラ・医療人材の不足

グローバルサウスの一部地域では、適切な医療設備や診断装置、医療スタッフの不足が深刻な問題となっています。これにより、適切な治療や診断が行えない場合があります。

特に医師や看護師、医療技術者などの専門家が不足している場合が多く、これにより適切な医療サービスを提供することが難しい状況があります。また、医療人材の偏在(都市部に集中し、地方はいつも人材が不足している状態)も課題となっています。

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保健衛生の不足や感染症の蔓延

衛生状態の悪さや適切な健康教育の不足が、感染症の拡大や健康問題の悪化につながることがあります。

例えば、日本では手洗い、うがいなどは感染症を防ぐための手段としてほぼ常識と言っていいほど浸透しています。しかし、安全な飲料水の供給や衛生設備の整備が急務である地域では、まず水が汚染されている、または国民自体に手洗いなどの公衆衛生的な知識がないため、一旦感染症が起こると、日本と違いまたたく間に広まってしまいます。

※参照URL:世界の健康と国際経済の分かち合い | Share The World's Resources (STWR)
※参照URL:グローバルヘルス戦略の 取組状況について

グローバルサウスにおけるヘルスケア事業に共通するビジネスチャンス

グローバルサウスと呼ばれる国々では、医療・ヘルスケアへの需要が高まっており、日本企業にとってもビジネスチャンスが高くなっています。ここでは、日本の産業や企業の例をいくつかご紹介いたします。

医療機器・技術の提供

グローバルサウスでは、現地の医療インフラが整っていない場合があり、医療機器や技術の需要が高まっています。日本企業は、高品質かつコスト効率の高い医療機器や診断技術を提供することで、現地の医療サービス向上に貢献できます。

また、医療人材の育成は、グローバルサウスの医療システム強化に欠かせない要素です。日本の医療専門家や教育機関が、医師や看護師などの現地の医療人材を対象にした訓練・教育プログラムを提供することで、医療の質を向上させる手助けができます。

現に、AA Health Dynamics株式会社というスタートアップはその1つです。慢性的な医師不足に悩むケニアで、現地の医師がオンラインにより超音波検査機器や医療用画像診断機器などの使い方を研修できる医療教育プラットフォーム「MedicScan」を運営しています。

また、そこで使用される医療機器には、富士フイルム社の製品が活用されており、営業活動が難しい遠方の土地で、製品の認知度を高められるメリットがあります。

※参照URL:スタートアップ×新興国に熱視線。通商白書が「内なる国際化」を問う | 経済産業省 METI Journal ONLINE
※参照URL:グローバルヘルス戦略の 取組状況について

薬剤供給と疫病管理

グローバルサウスでは感染症や伝染病のリスクが高い地域も多いです。日本の製薬企業は、新たな治療法やワクチンの開発、薬剤の供給を通じて、疫病管理に貢献するチャンスがあります。

特にここ数年、日本の製薬企業は海外への供給を積極的に展開しています。海外進出においては、商慣行や法規制の違い、品質問題などさまざまな課題が挙げられますが、海外市場への需要を取り込むためには重要な足がかりになると考えられます。

市場調査によると、内服固形剤の製剤技術や医薬品の受託製造などの製薬技術が活かされ、海外進出を通じてグローバルサウス地域などでのビジネス展開や合弁会社の設立が進められていることから、日本の製薬企業はグローバルな市場での存在感を高めています。

※参照URL:国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴 | 政策研ニュース | 医薬産業政策研究所
※参照URL:独自のグローバル展開|大塚製薬
※参照URL:医薬品のグローバルサプライチェーンと 日本における安定供給のリスクについて

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ヘルステクノロジーの導入

スマートフォンやモバイルテクノロジーの普及により、グローバルサウスでもヘルステクノロジーの需要が増加しています。健康モニタリング、予防医療、健康情報提供などの分野で、日本のヘルステクノロジー企業が展開する可能性があります。

また、テレメディシンなどの遠隔医療は日本の地理上重要な課題ですが、同じようにグローバルサウスの国々も地理的な問題を抱えている国は多いです。

そのため、日本の遠隔医療の技術をそれらの国にも提供し、患者が遠隔地にいる、移動が難しい、または緊急事態の場合などにも応用できるようにすれば、それらの人材育成や技術提供などによりそれに関わる日本企業にはさらなるメリットが望めるようになるのではないでしょうか。

※参照:https://static1.squarespace.com/static/5501a6c4e4b0fda45131b71f/t/57597dc945bf21a62c6c306c/1465482707649/Japan+Big+Issue.pdf
※参照URL:テレメディシンの現状と将来

グローバルサウスでヘルスケア事業をマネタイズを成功させるには

グローバルサウスにおいて、ヘルスケア事業のマネタイズを成功させるためにはいくつかのポイントが考えられます。ここでは、著者が個人的に考察したマネタイズ成功のためのポイントをお伝えします。

価値提供の最適化

地域の健康課題を理解し、現地のニーズに合ったサービスを提供することが必要です。実際にお金を出すのは現地で生活している人たちですので、単に健康になるなど漠然とした価値に必ずしも生活者がお金を出すという訳ではありません。

特に経済的にあまり余裕のない人たちにとっては、健康維持というよりも、症状が出た際にそれを治療したり、改善したりする薬やサービスを求めています。

グローバルサウスにも富裕層はいますが、わたしたちがインターネット等で触れる情報は、貧困層に関わるものが多いのが事実です。皆さんが持つサービスや製品がどの層に価値を提供するのか明確にすることが、もっとも重要なであると考えます。

また、期待を超える付加価値や体験を提供できないとお金を出すというモチベーションが生まれません。予め市場リサーチをしっかりと行い、現地の人たちが本当に求めているニーズに合わせた製品やサービスを提供することが大切です。

持続可能なビジネスモデル

地域の経済状況や文化に適合したビジネスモデルを構築し、収益を持続させることが重要です。そのためには、地域の医療機関や専門家と連携し、信頼性のあるパートナーシップを築くことが必要です。

また、ヘルスケア事業の成功には、マネタイズの難しさに対処する必要があります。公的医療保険や支援制度の利用、民間企業との連携などを行い、それぞれの国の特徴に合わせたアプローチが必要だと思います。

それ以外にも、ヘルスケア事業では「ステークホルダー」を間違えやすいことが挙げられます。「そこで生活している人」という大まかな区分ではなく「感染した人」、「病院へ入らなくてはいけない人」、「医療従事者」など、その事業に合わせ細かくステークホルダーを選定し、それに合わせて行うことも大切だと思います。

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テクノロジーの活用

テレメディシンについての記述でもお伝えしましたが、デジタルヘルスケアやテレヘルスなどの技術を活用して、効果的なケアと運営を実現していくことも重要です。

ビジネスですので、利益が出なくてはいけません。そのためには、できるだけコストを削減し市場を拡大していくことが大切になってきます。

そのためには、テクノロジーの活用を増やし、最小限の医療デバイスやスタッフで最大限のヘルスケアを実践していくことが成功へのカギだと思います。

※参照URL:ヘルスケア事業特有のビジネス創出のポイント・注意点
※参照URL:インダストリーとサービスを掛け合わせ ヘルスケア参入を支援 | PwC Japanグループ

まとめ

グローバルサウスとは元々は、地理的な条件や経済的に余裕がない国として区分されてきました。しかし、近年では経済成長も目覚ましく、ウクライナ情勢ではグローバルサウスの国々が「第三国」という新興国の立場にたち、他の国々に影響を与えました。

ウクライナ危機を通じて、日本もグローバルサウスとの関係構築に注力しています。特に日本はグローバルサウスにおけるヘルスケア事業に関心を示しており、国際的な協力や連携を進めています。

グローバルサウスへの日本の介入は多くの課題もありますが、ビジネスチャンスの到来ともいえ、今後の日本企業の市場拡大に大きく影響していくと考えられます。

グローバルサウスの課題やマネタイズなど、メリットを得る前にはさまざまな問題が重なっていますが、これらの要素を組み合わせ、グローバルサウスの国々の特性に合わせた戦略を構築することがグローバルサウスにおけるヘルスケア事業の成功につながっていくと考えています。

増田さなえ

増田さなえ

米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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