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アフリカ

アフリカの隠れた健康危機:肥満の増加とその影響

アフリカ大陸では飢餓や栄養失調が主な健康問題とされてきましたが、近年、日本や欧米諸国と同様に「肥満」による健康危機が急速な広がりを見せています。ここでは、その現状や要因をお伝えし、政府やNGOがどのような対策に取り組んでいるかをご紹介します。

アフリカの隠れた健康危機:肥満の増加とその影響

アフリカ大陸では飢餓や栄養失調が主な健康問題とされてきましたが、近年、日本や欧米諸国と同様に「肥満」による健康危機が急速な広がりを見せています。ここでは、その現状や要因をお伝えし、政府やNGOがどのような対策に取り組んでいるかをご紹介します。

(目次)
  1. 隠れた健康危機とは?
  2. アフリカの肥満が増える原因
  3. 満が与える健康への影響
  4. 日本企業が介入できそうなビジネスモデルの提案
  5. まとめ

隠れた健康危機とは?

アフリカ大陸は今も衛生問題や伝染病など多くの健康問題に直面していますが、昨今では新たに「肥満」による健康危機が深刻化しています。

日本での認知度はまだ低い傾向にありますが、アフリカの肥満率の高まりは、近年、世界的に問題視されている項目の1つです。中でも、特に注目すべき現象として、低所得層において栄養不足と肥満が同時に発生する「二重の栄養負荷」が取り上げられます。

二重の栄養負荷とは?

アフリカの二重の栄養負荷とは、栄養不良(特に、低体重やビタミン・ミネラルの欠乏)と肥満や生活習慣病が同時に存在する状態を指します。この問題は、アフリカ諸国の都市化や経済の発展とともに年々増加しています。

2019年時点でも、5歳未満の世界の肥満児の24%がアフリカに住んでいるとされています。(※1)

世界保健機関(WHO)の分析によれば、10か国のアフリカ諸国で肥満の負荷が高く、2023年までに対策を講じなければ、成人の5人に1人、さらに子どもに関しては10代の10人に1人が肥満になると予測されています。(成人の肥満率は13.6〜31%、子供や10代の肥満率は5〜16.5%)

※1参照URL:https://www.afro.who.int/news/obesity-rising-africa-who-analysis-finds

※参照URL:https://thesouth.jp/291/

二重の栄養負荷となる仕組み

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食料が常に手に入りにくい国では、「手に入ったときにできる限り食べる」という習慣があります。

例えば、アフリカの都市部以外では未だに男性優位の社会が多いため、食事は男性→女性→子どもの順に食べるのが習慣になっています。そのため、子どもたちは食べ物を残すという考えはなく、与えられた食べ物を与えられただけ食べることが定着しています。

また、食べ物でも栄養を考えたバランス食という概念が浸透しておらず、単純に満腹感を得られる高カロリー食品が選ばれがちです。

以上の習慣や文化が、低体重やビタミン・ミネラルの欠乏といった栄養不良と肥満や生活習慣病を同時に引き起こし、一見して矛盾するような「二重の栄養負荷」を作り出しています。

※参照URL:https://gooddo.jp/magazine/hunger/asia_hunger/4623/


アフリカの肥満が増える原因

ここでは、アフリカ諸国に肥満が増える原因について詳しく説明していきます。

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都市化と運動不足

アフリカ諸国の食生活は、都市化の進行により、従来の伝統的な食事から高カロリーの加工食品へとシフトしてきています。都市部では若い人たちを中心にファストフード店も人気があり、賑わいを見せています。

このような食品は栄養価が低いわりにカロリーが高いため、欧米では「Empty Calories」と呼ばれ、肥満を引き起こす一方で、必要な栄養素が不足して栄養不良を招く原因となります。

※参照URL:https://www.medicalnewstoday.com/articles/empty-calories#what-are-they

また、都市部では自動車や公共交通機関の利用が増え、歩行や自転車による移動が減少することで、運動不足も生じてきてます。また、農村とは違い、デスクワーク中心の仕事に就く都市部の人たちは仕事中も体を動かせる機会がありません。

「肥満の女性は美しい!」の影響

アフリカの一部の文化では、太っている女性が美しいとされることがあります。中でも、西アフリカのモーリタニアでは、歴史的に、太っていることは十分な食料を有している証として豊かさや社会的地位の高さを示すものでした。そのため、現在でも太っている女性が魅力的であるとされています。

モーリタ二アだけでなく、一部のアフリカの文化では、太っていることは健康状態が良いことを意味するとも考えられています。

太っている女性は健康であり、子孫繁栄や豊穣を象徴する存在といわれ、肥満に対する問題意識が低い傾向にあります。このような価値観は、世代を超えて伝わり、現代の文化にも息づいています。

※参照URL:https://afri-quest.com/archives/8750

※参照URL:https://www.atpress.ne.jp/news/116674

※参照URL:https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2021/04/1020.php

貧困と栄養教育の不足

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低所得者の中には、食事に割ける費用が少ない人々が多く、安価な食品を選ぶ傾向があります。高カロリーで栄養価が低い食品(ファストフードやインスタント食品など)は、健康的な食品よりも安価であることが多くあります。

アフリカ諸国は発展してきているとはいえ、栄養学などの教育はまだまだ未成熟と言わざるを得ない現状で、どうしても満足感を得やすいファストフードやインスタント食品に手を伸ばしがちになります。

例えば、ナイジェリアのごく一般的な食事メニューとして、朝は砂糖過多のカップケーキと炭酸飲料水、昼はご飯やイモ類の上にかけたシチューと炭酸飲料水、夜はヤギのシチューなどの肉類と共にイモ類、などがあります。

上記の内容を見ても分かるように、一切の緑黄色野菜やサラダが含まれていません。国民一人ひとりの栄養教育が不十分であり、適切な食事の摂取や健康維持の重要性が十分に理解されていないため、過栄養と栄養不良が同時に発生するリスクが高まっています。

※参照URL:https://tabisite.com/hm/shoku/z40/

※参照URL:https://www.olive-hitomawashi.com/column/2020/09/post-11699.html


肥満が与える健康への影響

肥満が引き起こす健康問題は、アフリカの医療システムに負担をかけるだけでなく、労働力の低下や経済的な問題も引き起こす可能性があります。

高血圧・高脂血症からの心疾患

肥満は高血圧の主なリスク要因の一つです。体重が増えると、心臓は体全体に血液を送り出すためにより一層働かなければなりません。

これにより血圧が上昇し、心臓に余計なストレスがかかることになります。長期的には、心臓の筋肉を弱め、心疾患を引き起こす主な原因となります。

また、血液中の脂質で、高レベルが続くと動脈硬化(動脈壁の硬化と狭窄)を引き起こし、心臓への血液供給が制限されてしまいます。例えば、細長いホースと太いホースを思い浮かべてみたときに、細いホースは太いホースよりホース内の水圧が高くなり、水の勢いが強くなります。血圧も同じであり、血管が動脈硬化と呼ばれる脂肪が硬くなった物質で細くなるため、血の流れが速くなり、それと共に血管の圧力も高くなります。同じように、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高めることになります。

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糖尿病

糖尿病とは、血糖(血液中のグルコース)の調節がうまくいかないとことから起きる病気であり、現在では1型・2型糖尿病など、複数の種類の糖尿病に細かく分類されています。

特に2型糖尿病とは、肥満や遺伝、加齢、不健康なライフスタイルなどの要因によって成人期に発症することが多い疾患です。放置しておけば血液中の糖分が過剰になり、心臓病、腎臓病、視力低下、神経障害などの重篤な健康問題を引き起こしてしまいます。

関節痛や骨格系の問題

肥満は関節や背骨に余計な負担をかけるため、関節痛や骨折のリスクが高まります。最近では食生活が豊かになり、欧米文化の糖質や脂質過多の食事も増えていることから、関節痛や腰痛などの問題を抱えている中年の人が多くみられます。

また、若い頃の力仕事による関節の炎症などが、加齢とともに悪化することにより、貧困層かつ保険を持っていない人を無料で診察するフリークリニックなどでは特に年配の人たちの大半が何かしらの痛みを抱えて通院しています。

癌などの悪性腫瘍

肥満は、さまざまな種類の癌のリスクを高めます。例えば、すい臓はインスリンと呼ばれる糖尿病と関係の深いホルモンの生産地ですが、肥満はインスリンの調整を鈍くさせるため、血液中のインスリンレベルが上昇する原因となります。

インスリンとともに増えるのがインスリン様成長因子(IGF)であり、これは細胞の成長と分裂を刺激します。この過剰な細胞の成長と分裂が癌の原因となります(※1)(※2)。

また、肥満は全身の炎症も引き起こします。脂肪細胞が過剰に存在する場合には、炎症を引き起こす化学物質を放出するようになります。この化学物質が体の細胞に損傷を与え、DNAに変異を引き起こし癌の細胞を作り出します(※3)。

そのほか、インスリンと同じように、肥満はホルモンバランスを変化させます。例えば、適切な量であれば女性には必須なエストロゲンホルモンですが、肥満はそれを過剰にさせてしまうため、乳癌や子宮体癌のリスクを高めてしまいます(※4)。

それ以外にも、肥満はレプチンというホルモンレベルを上昇させ、細胞の成長を促進する一方で、アディポネクチンという他のホルモンレベルを低下させるため、これらの不均衡により、癌のリスクを増加させる可能性があります。

上記のような理由から、乳癌(特に閉経後の女性)、大腸癌、子宮体癌、食道癌、膵癌、腎臓癌、肝臓癌などになりやすくなってしまいます。

(※1)参照URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-012.html#:~:text=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%B3%E6%8A%B5%E6%8A%97%E6%80%A7%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B,%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

(※2)参照URL:https://www.riken.jp/press/2018/20181105_1/index.html#:~:text=2%E5%9E%8B%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E3%81%AE%E5%8E%9F%E5%9B%A0,%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E5%88%86%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

(※3)参照URL:https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(13)00386-0

(※4)参照URL:https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8149.html


日本企業が介入できそうなビジネスモデルの提案

ビジネス展開も含め、日本企業がアフリカの肥満問題に取り組むには、現地のニーズとリソース、文化的な要素、地域の経済状況などを考慮する必要があります。また、現地のパートナーシップや政府との協力を得られれば、そのシェアは飛躍的に伸びると考えられます。ここでは日本企業の強みをもってして、日本企業が介入しうるビジネスモデルについて筆者の考えを提案いたします。

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健康食品の開発と販売

日本の食品企業は、高品質の食品を生産・販売していることで世界的にも有名です。そこで、現地課題を解決する、低カロリーで高たんぱくの食品、砂糖の代替品、全粒穀物製品など、健康的で栄養バランスのとれた食品の開発と販売も需要が高いかもしれません。

また、そのノウハウをアフリカにも普及させ、日本の健康食品を輸入したり、アフリカの植物などから健康食品を現地で作り生産したりするようなビジネスも考えられます。

注:ただし、アフリカ諸国の国によっては日本の食品や医薬品に対する規制が厳しい国もあるため、注意が必要です。

※参照URL:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2021/0501/1168fd172ce8240f.html

ヘルスケア技術

日本のテクノロジー企業は、ヘルスケア技術を輸出することが可能です。例えば、AA Health Dynamics社では、「超音波診断(POCUS)」を用いた医療教育に注力し、超音波診断を行う産婦人科トレーニングをケニアで実践しています(※)

※参照URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000102986.html

それ以外にも、糖尿病の血糖値なども管理できるような健康管理アプリ、フィットネス追跡デバイス、遠隔医療サービス、栄養指導サービスなどは、アフリカの人たちのスマホの普及率を見ても介入の余地があるのではないでしょうか。

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健康教育と啓発活動

健康的な生活習慣の啓発と教育活動に対して資金提供するだけではなく、ビジネスとして技術や教育を提供することも可能です。アフリカの学校やコミュニティでの栄養教育プログラムや運動プログラムの技術や知識が普及すれば、フィットネスクラブやスポーツ施設の設立、スポーツ用品の販売、パーソナルトレーニングサービスの提供など、身体活動を促進するビジネスにも日本企業は介入できるのではないでしょうか。

まとめ

アフリカでは、従来の健康問題である飢餓に加えて、新たな健康危機として肥満の問題が浮上しています。多くの人々が栄養不足に苦しんでいる一方で、肥満の人口も増加しているというこの状況は、「二重の栄養負荷(ダブルバーデン)」と呼ばれ、世界的に問題視されています。

この肥満増加の背景には、経済成長に伴う生活環境の変化や「女性は太っている方が美しい」などの昔からの因習、栄養に関する教育不足などがあると考えられます。

肥満は、心血管疾患、糖尿病、そして一部の癌などのさまざまな慢性疾患のリスクも高めます。症状や治療のために、患者の生活の質は低下し、寿命も縮めてしまいます。アフリカ全体で肥満が増加すると、これらの慢性疾患の発症率も上昇するだけでなく、経済活動にも影響を及ぼしかねません。

これらの肥満問題に日本企業が介入するには、社会背景やニーズ、資源などへの包括的なアプローチが求められます。健康食品などの販売・輸入、健康的な食生活や適度な運動の啓発ビジネスなど、さまざまなビジネスモデルの将来的な展望も見えてくるのではないでしょうか。

増田さなえ

増田さなえ

米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

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